<神経学的診察>

この項は、野村芳子先生にご寄稿頂きました。

野村芳子 医師

野村芳子小児神経学クリニック

●神経学的診察について

 

神経学的検査について説明する前に、具合が悪く医者に行く場合の一般的なことから説明します。

体の具合が悪く医者のところに行くとまず「どうされましたか?」と聞かれます。これは問診と呼ばれ病気の経過、またこれまでかかった病気などについて聞かれます。その次に患者さんの診察が行われます。最初に全身の状況を診察します。また例えば呼吸器の病気が疑われる場合は胸部の打診、聴診など、腹部の病気が疑われる場合はお腹の触診、打診、聴診などが行われます。こうしたことにより心臓、肺、胃、腸、肝臓など内臓の状況を推察します。

神経系は中枢神経系(脳、脊髄)と末梢神経系に分けられます。脳は大脳、小脳、大脳基底核、脳幹などに細分され、それぞれが固有の神経で結ばれています。

ヒトの機能は運動神経、感覚神経、自律神経などにコントロールされています。更に、精神、感情、意志なども脳の神経の働き・支配によります。このような神経の状態を調べる基本的な手法が神経学的検査です。

一般的には視力、目の動き、聴力、口の動き、筋力、反射、バランス、歩行、感覚(感触、痛み、振動など)等順番にしらべ脳の中の神経の機能の状態を考えます。

精神、感情、意志などの状態も問診、観察などからそれぞれを支配している神経の状態を解析します。

また、小児期に始まる病気の場合、神経系は一定の順序をもって発達することを考慮することが大切です。それぞれの年齢で発達している神経がいかに働いているかを診察の結果から分析します。

また脳神経は親から受け継いだものに加えて、環境からの影響を受けます。即ち、育児、教育、しつけ、自己訓練なども後天的に発達する神経系を変えます。

自閉症では診察の指示に従うことが困難であることが少なくありません。年少の自閉症児では筋肉の緊張が低下していることがしばしばあります。巧緻な運動ができない場合、ぎこちないこともあります。また、足踏みの際、上肢と下肢の動きが不十分であったり、交互に動かないこともしばしばみられます。這い這いをしてもらうと、年少児では四つ這いが通常の格好で出来ない場合が少なくありません。年少・年長児・時に成人の自閉症の歩行がつま先歩きになったり、四つ這いの時の足指が背屈することもしばしばみられます。

この様に自閉症は運動に関する神経系にも問題があります。

自閉症の精神、感情などの解析はいくつかの質問をし、それぞれに関連した神経がいかに働いているか検討します。

 

●睡眠について

睡眠は生体の現象であり、約24時間のリズムで覚醒と交互に出現します。

睡眠について考えるとき睡眠の内容(睡眠要素)と睡眠・覚醒リズムについて検討します。

睡眠構成要素と睡眠・覚醒リズムはそれぞれ固有の神経系に支配され、固有の発達過程をとります。

 

1.睡眠要素の発達

睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠に分けられます。ノンレム睡眠は浅い睡眠、深い睡眠の4段階に分けられます。これらは固有の神経機構により支配されています。

また、これらの神経機構は発達過程において固有の経過をとり、脳の発達に関連します。

2.睡眠・覚醒リズムの発達

このリズムの発現は脳内にあるいわゆる体内時計により制御されています。体内時計の周期は通常25-26時間です。ところが地球は24時間で自転しており、一日24時間の中に昼間と夜があります。ヒトが24時間のリズムで活動するためには昼夜の明暗の区別がついた環境要因が欠かせません。

生後の睡眠・覚醒リズムは一定の年齢に発達してきます。

 

自閉症ではこの睡眠・覚醒リズムの発達に問題があります。

なかなか夜眠れず、日中に眠気が出現する、入眠時間が1-2時間ずつ後ろにずれていく(体内時計のリズム)、夜中覚醒するなどがみられます.

これらの背景には生来の本人の脳の状況に加えて、生後発達する神経系が影響しています。

これには育児、教育、しつけの過程が重要となるといえます。

※野村先生は、S先生(故人)の右腕となる先生で、S先生の考え方を引き継いでおられます。