9.「睡眠」と「脳」の関係


「てんかん」発症

 5歳の後半、ある早朝5時頃、身体の左半分が、硬直状態になりました。後でわかりましたが『けいれん」でした。朝の5時頃は、一人笑い出した息子をやっと寝かしつけ私も眠りに入った時間です。虫の知らせか硬直が起きた時、眼が覚めたのです。

15~16秒足らずだったと思いますが、すぐに硬直は治りましたが、発作は2日間続けて起こりました。すぐに治まったことから、私はこの出来事をさほど重要に考えず、病院に行く事など考えていなかったのですが、幼稚園のお友達の障がい児を持つお母さんに話すと病院で検査することを薦めてくれました。以前通っていたデイケアに併設されていた病院で検査を受けましたが、暴れるため脳波検査ができませんでした。お友達のお母さんが小児神経専門のクリニックを受診することを薦めてくださいました。

小児神経のS先生の初診を受け(のちに小児神経の世界的権威ある先生であることがわかる)、S先生の紹介で近くの大学病院でMRIを受けに行きました。その前に、睡眠薬を飲ませるのですが、眠くなると眠ることを拒み、暴れ、検査を受けることができません。一日目、閉院時間まで頑張りましたが諦め、翌日、また大学病院に伺い、やっと受ける事ができました。

それから数日後、S先生のクリニックで脳波検査を受けることになりました。ぐっすり眠っては検査にならないそうで、軽めの睡眠薬を飲ませるのですが、またしても眠くなると恐怖のためか眠ろうとしません。

眠らないため追加の睡眠薬を飲む羽目になり、結果的に3回飲みましたが、眠くなると、壁に自分から頭を打ち続けて、朦朧とした状態であばれ、検査ができません。またしても諦めて家に帰ることになりますが、5歳の子が唸り声をあげたり、暴れたり、酔っ払いのような状態なので、電車に乗って帰ることはできません。タクシーで帰ることになりました。その夜も睡眠不足の状態にして、翌日また病院に連れて行き、睡眠薬を飲ませ、やっと脳波検査を行うことができました。検査の結果『てんかん』だという事がわかりました。その後、年に1回脳波検査を行ってきましたが、その度に、眠ることを拒む息子に、親子共々奮闘する事が数年続きましたが、通い慣れた病院で、眠くなると待合室でなく、個室に入れて頂くことがことができたので、本人も安心して検査を受ける事ができるようになりました。

てんかん発症以来、薬(「テグレトール」)を飲んでいます。毎月1回病院に通う生活が始まりました。毎年1回脳波検査も行っています。目に見えての「てんかん」の発作は、5歳以来一度もありませんが、現在でも継続して通っているため月1回の病院通いは40年になります。S先生に35年間程お世話になりましたが、残念な事に、S先生が2014年にお亡くになり、現在は、S先生の右腕でおられ、S先生の意思を継続され開業されたNY先生にお世話になっております。

自閉症は、「てんかん」を発生する率が多いようで、知人の中でも、成人になって発生した人が何人かいます。箸を落としただけでも「てんかん」の発作の場合があるようで、気がつかないまま済んでしまっていて、大発作があって気づく人もいるようです。成人の自閉症者は、一度は病院で脳波検査してもらった方が良いと思います。

 

●「脳の発達」には、「睡眠」が大切!

「自閉症」と言うと、今まで、観察するだけの医師が多かった中で、S先生は、医学的立場から、「脳の発達」には、どう育てていく事が良いのか診察に行くたびに指導して下さいました。

毎月伺うと必ず「診察」があり、這い這い」をさせてみたり、「足踏み」をさせてみたり、「目をつぶって自分の鼻に自分の人指し指を当てることが出来るか」「両手首を左右に回転させて」「ベロを左右に動かす」など、いろいろの動作をさせて、身体の動き具合から脳の発達具合を診察しているようでした。

これらは「神経学的診察」(注1)と言うそうです。初診で言われた事が、「睡眠が大切だから(注2)睡眠表をつけてください。」と、「睡眠表」の記録用紙を渡されました。

そして、睡眠を取らせるために、日中運動をさせて、ぐっすり眠るよう生活改善をしてくださいと課題を与えられました。

 

 

<神経学的診察>

この項は、野村芳子先生にご寄稿頂きました。

野村芳子 医師

野村芳子小児神経学クリニック

●神経学的診察について

 

神経学的検査につて説明する前に、具合が悪く医者に行く場合の一般的なことから説明します。

体の具合が悪く医者のところに行くとまず「どうされましたか?」と聞かれます。これは問診と呼ばれ病気の経過、またこれまでかかった病気などについて聞かれます。その次に患者さんの診察が行われます。最初に全身の状況を診察します。また例えば呼吸器の病気が疑われる場合は胸部の打診、聴診など、腹部の病気が疑われる場合はお腹の触診、打診、聴診などが行われます。こうしたことにより心臓、肺、胃、腸、肝臓など内臓の状況を推察します。

神経系は中枢神経系(脳、脊髄)と末梢神経系に分けられます。脳は大脳、小脳、大脳基底核、脳幹などに細分され、それぞれが固有の神経で結ばれています。

ヒトの機能は運動神経、感覚神経、自律神経などにコントロールされています。更に、精神、感情、意志なども脳の神経の働き・支配によります。このような神経の状態を調べる基本的な手法が神経学的検査です。

一般的には視力、目の動き、聴力、口の動き、筋力、反射、バランス、歩行、感覚(感触、痛み、振動など)等順番にしらべ脳の中の神経の機能の状態を考えます。

精神、感情、意志などの状態も問診、観察などからそれぞれを支配している神経の状態を解析します。

また、小児期に始まる病気の場合、神経系は一定の順序をもって発達することを考慮することが大切です。それぞれの年齢で発達している神経がいかに働いているかを診察の結果から分析します。

また脳神経は親から受け継いだものに加えて、環境からの影響を受けます。即ち、育児、教育、しつけ、自己訓練なども後天的に発達する神経系を変えます。

自閉症では診察の指示に従うことが困難であることが少なくありません。年少の自閉症児では筋肉の緊張が低下していることがしばしばあります。巧緻な運動ができない場合、ぎこちないこともあります。また、足踏みの際、上肢と下肢の動きが不十分であったり、交互に動かないこともしばしばみられます。這い這いをしてもらうと、年少児では四つ這いが通常の格好で出来ない場合が少なくありません。年少・年長児・時に成人の自閉症の歩行がつま先歩きになったり、四つ這いの時の足指が背屈することもしばしばみられます。

この様に自閉症は運動に関する神経系にも問題があります。

自閉症の精神、感情などの解析はいくつかの質問をし、それぞれに関連した神経がいかに働いているか検討します。

 

●睡眠について

睡眠は生体の現象であり、約24時間のリズムで覚醒と交互に出現します。

睡眠について考えるとき睡眠の内容(睡眠要素)と睡眠・覚醒リズムについて検討します。

睡眠構成要素と睡眠・覚醒リズムはそれぞれ固有の神経系に支配され、固有の発達過程をとります。

 

1.睡眠要素の発達

睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠に分けられます。ノンレム睡眠は浅い睡眠、深い睡眠の4段階に分けられます。これらは固有の神経機構により支配されています。

また、これらの神経機構は発達過程において固有の経過をとり、脳の発達に関連します。

2.睡眠・覚醒リズムの発達

このリズムの発現は脳内にあるいわゆる体内時計により制御されています。体内時計の周期は通常25-26時間です。ところが地球は24時間で自転しており、一日24時間の中に昼間と夜があります。ヒトが24時間のリズムで活動するためには昼夜の明暗の区別がついた環境要因が欠かせません。

生後の睡眠・覚醒リズムは一定の年齢に発達してきます。

 

自閉症ではこの睡眠・覚醒リズムの発達に問題があります。

なかなか夜眠れず、日中に眠気が出現する、入眠時間が1-2時間ずつ後ろにずれていく(体内時計のリズム)、夜中覚醒するなどがみられます.

これらの背景には生来の本人の脳の状況に加えて、生後発達する神経系が影響しています。

これには育児、教育、しつけの過程が重要となるといえます。

※野村先生は、S先生(故人)の右腕となる先生で、S先生の考え方を引き継いでおられます。