13.日常生活の中で勉強


●「お手伝い」から「言葉の理解」

小学生にもなって、「ポインティング」「ネーミング」「マッチング」など、幼児の勉強だと思いますが、今にして思えば、この基礎的な事を理解させたから、「お母さん」と言う抽象的な言葉の意味を理解し、私が教えなかったような事柄も自分から発信し、成長し続けていると思います。

「しゃべれない」とはいえ、こちらの言っていることを理解できるようにする為に、どうしたら良いか?「お手伝い」をさせることにしました。

1.数字について2個、3個と口で発音している言葉と、実際が一致することができ、理解しているかかどうか?

2.抽象的な言葉「多い・少ない」、「太い・細い」などファジーな感覚のもの

3.「同じ」という言葉がどういう状態のことを意味しているのか?

4.上下左右の位置関係「多い・少ない」、「太い・細い」、「同じ」、「上下左右」これらの言葉は、場面場面によって違い、その時々によって違い、パターン化されないので自閉症の子供にとって混乱をきたし、理解させるのに時間がかかりました。

それを理解させるために、おやつで「多い・少ない」を、「同じ」という言葉に関しては、おやつのお菓子をおせんべい3枚とチョコレート2個を3セット同じに用意させる。お茶碗とお箸の見本セットを作り、『お茶碗とお箸を同じように並べて』と用意させる。

「2段目、3段目」という言葉も、紙のドリルでは1行目2行目となり理解できない事柄です。『右の棚の、上から3段目のお皿を1枚出して』とさせますが、最初はもちろんヘレンケラーとサリバン先生並に一緒に行動していました。

それ以外に、『玄関から新聞をとってきて』『玄関をお掃除して』『窓ふきをして』と色々手伝いをさせて、こちらの指示していることが、どういうことを指しているのかを理解させていきました。教えなければならないことは、山ほどありましたが、日常生活の中から教える事は出来ました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・言葉の理解についての面白い話・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お土産」事件

20歳過ぎてからの出来事ですが、「言葉の理解」について面白い話があります。その頃は、もう落ち着き、言葉はなかったのですが、工場にも就職できていました。親しくしているTさんが、ホームパーティーに招待してくれました。息子1人でもかまわないということで、1人で出かけることになりました。外人の方も含め多くの方が参加されるということだったので、「お土産」にジュースを買って持っていくように伝えました。

その頃、毎日会社の帰りに、自分でジュースを買って帰ってきていたので、「ジュース」ならば、買って「お土産」として持って行く事は出来ると考えました。パーティーから帰ってきて、「お土産持って行った?」と聞くと、けげんな顔をしています。言葉も無いのでわかりません。翌日、会社から戻ってくると、普段買わないようなジュースを持って帰って来ました。すぐに、ホームパーティーに招待してくれたTさんから電話がかかってきました。「実は、今日も我が家に寄り、すぐに、冷蔵庫を開け、何か探しているので、理由がわからなかったのだけど、そこにあったジュースをあげました。」と報告があり、理由がわかりました。あの子にとっ「お土産」という言葉は、自分がもらう物だけの言葉だったようです。 ですから、「お土産」をもらわなかったと不安に感じて、もらいに行ったようです。差し上げるときも「お土産」という言葉を使うという事も教えなければならないと気が付いた一件でした。また、普段家庭の冷蔵庫は、親の承諾も得ずに開け閉めしても良い行動ですが、それを他人の家でも同じように行ってしまうのは自閉症特有です。同じ行為でもやって良い場合と悪い場合があるという事は、自閉症には理解出来ない事柄で、その場その場で教えていかなければならず、家庭だけで教育することには限度があり、第三者にも協力してもらい教育する必要性があると思いました。このように、色々体験して初めて、欠けている部分に気がつくのです。

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●「環境やチャンスを与える」ことが親の役目

自閉症児の行動で、しつけがなっていないと言われてしまう行動があります。

それは、家で遠慮なくやって良い行動でも外出先では同じようにやっていけない行動があるという事を判断できない為、人から眉をひそめられるような事になってしまいます。言葉の理解の一件の時のように、20歳過ぎても、自分の家で冷蔵庫を開けるように、他人の家に行っても同じように開けてしまうという行動は、その判断ができないからで、その場、その場で、説明し、一つのパターンとして覚えさせていくしかないと思います。

障がいを持つ親御さんで家庭の中では何も問題がないと言う親ごさんがいますが、外に出ると、全くマナーを知らず社会ルールが全く出来ていない事に気がつくと言う場合が自閉症児には多いです。事が起きて、初めて、親は、こういう事が理解できていなかったのかと気がつく有様です。そんな場面場面でのマナーを教えるため、お友達の家に遊びに行ったり、児童館、プレイパークなどを利用し、いろんな体験をさせて、子供を自由に遊ばせながら、人前でそういう事をしたら、恥ずかしいとか、やっていけない行為である事をわかってもわからなくても、何度も説明し話しかけ、体験させてきました。障害を持っているから仕方ないのではないのです。教育すれば、わかってくるのです。

悪い事をした時も、後から説明しても、本人にとっては何の事かわかりません。その場で叱る事が必要です。家族だけが叱るのではなく、他人から叱られることも大切です。ですから、常に、関わった方には、直接、注意してくださいとお願いしていました。後から、電話で言ってこられても状況がわからず、せっかくの体験も子供の成長の為にはならないのです。菓子折りを持って、謝りに伺ったことは、何度もあります。そうしてでも、子供を一人で外出させたのは、子供の障がいが、神経と神経の横のつながりがうまくいかず、1つ1つパターンとして頭の中に入れてインプットさせていかなければならないので、多くの体験を必要とすると考えたからです。そして、いつも恵まれた環境ではなく、時には困らせて、自分の頭で考えるよう仕向けたりして体験させていきました。

子供の力を伸ばすのは、勉強を教えることでもなく、子供が力を発揮出来るよう環境やチャンスを与える事が親としての役目と私は考えました。